スパイダーシルクの魔法

バザールをうろうろしていたら、知った顔を見つけた
知った顔…といっても、そんな親しいっていう自信はない
以前、街で花輪をくれた商人さん、綺麗なものを取り扱うアルマンドールさん

どうやら、ニュースペーパーみたいなものを熱心に見ている途中みたいだった
そして、なんだか独り言が聞こえてしまったのだけれど
「ポイズンスパイダーを討伐して、巣を焼き払ってしまうのはもったいない」…らしい

それって、どういう意味？
そう思って、ついつい声をかけてしまった。

アルマンドールさんが言うには、ポイズンスパイダーの糸と卵は綺麗な工芸品になるらしい
卵は、やわらかくて弾力があり、色がとても綺麗らしい
そして、その卵を包む糸は、とても綺麗な糸としてつむがれる

アルマンドールさんは、こっそりと糸の具体例を教えてくれた
今、街と都で流行しているとある歌姫さん
名前は、ださないけれども…銀髪がとても綺麗で、歌も綺麗で
あっちこっちで、評判になっているほどの人

実は、その歌姫さんの銀髪は、この蜘蛛の糸で作られたカツラなんですって
……すごく驚いてしまった
しかも、そのカツラを用意したのはアルマンドールさん
デビュー前、容姿にどうしても自信がもてなかった歌姫さんに依頼をされて
アルマンドールさんが用意したのがカツラだったらしい

その綺麗な髪を手に入れて、歌姫さんは自信を持った…のかはわからないけれど
見違えるほどに美しく、歌も上手になったんだって

何となくわかるかもしれない
綺麗な洋服をきたり、綺麗な場所にいるとちょっと背筋が伸びる
洋服で、女性は態度が変わるっていうけれども
きっと、その延長なのかもしれない

ポイズンスパイダーが出没するという遺跡に、わたしも行く予定があるといったら
卵と糸をもってきてくれないかという依頼を請けた
もちろん、断る理由なんて無い
……状況によっては、取れない可能性もあるけれどね
でも、目指してみたい
だって、わたしも綺麗なものを見てみたいもの

依頼を引き受けた後は…
実は、件の歌姫さんのステージを見に行って来てしまった
しかも、ドレスを着て！
アルマンドールさんが、依頼金の一部ということで装いを手配してくれたんだ

赤みの入った、スモークピンクのドレス
白いヘッドドレスと、赤い靴
……うーん、こんな短期間に二回もドレスを着られるなんて…思わなかった
ヒールはつま先がちょっと痛くなったけれど
無事に大人しくもできたし、歌姫さんの歌もとっても綺麗だった

なんだか、シンデレラの魔法使いに魔法をかけてもらったみたいだった
さて、明日はちょっと遺跡にもぐってみようかな
がぜん、やる気がでてきちゃった！

【都のバザール：アルマンドール】